本稿はTeX & LaTeX Advent Calendar 2020の4日目の記事です。3日目はh20y6mさんでした。5日目はdoraTeXさんです。
ご存知の通り、2020年は世界的な新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の流行により、ほとんどありとあらゆることが平常通りにはいきませんでした。TeX Confもその例外ではなく、開催中止という結果になってしまいました。TeXConfは昨年も台風19号の影響で中止になっており、まさかの2年連続で不開催という大変残念な事態になってしまいました。
こうした状況下にあっても、少しでもTeXユーザが知見共有・交流する場を設けたいということで、11月21日(土)にOnline.tex 2020という代替のオンラインイベントを開催しました。今回はこのイベントについて、その企画の経緯から当日の様子までを振り返ってみたいと思います。
- イベントページ:https://connpass.com/event/188075/
- Togetterまとめ:https://togetter.com/li/1626695
経緯と目的
開催の経緯についてはイベントページの「趣旨と目的」に記した通りです。
日本語話者TeXユーザは通常であれば年に一度TeXConf(旧TeXユーザの集い)の機会に一堂に会し、毎回有意義な議論と交流を行っています。しかしながら、昨年のTeXConf 2019は記録的な大雨を引き起こした台風19号、本年のTeXConf 2020は新型コロナウイルス感染症蔓延と立て続けに厄災に見舞われ、残念ながら2年連続で中止となってしまいました。さらには現在のコロナウイルスの感染拡大による影響がいつまで継続するのかも、依然として見通せない状況が続いています。
こうした状況の中で、TeXおよびその周辺に関する知見の共有を(特に日本語で)行う機会がない期間があまりに長くなることを、個人的に大変悲しく思っておりました。これまでの経験から、オンラインイベントは実地開催のイベントの完全な代替にはなり得ないと承知していますが、それでも可能な範囲で知見共有とユーザ間交流の機会を設けることには意義があると判断し、Online.tex 2020を企画・開催することとしました。
端的に言えば、2年連続で厄災に見舞われ中止になってしまったTeXConfの代替オンラインイベントとして開催しました。8月31日にTeXConf 2020の開催中止(およびオンライン等での代替開催もないこと)がアナウンスされてから、中2日でイベント企画の格子を作成し、9月3日にイベント公開したので、実はスタートはかなりの突貫でした。
TeXConfの代替イベントということで、その目的は例年のTeXConfの目的に倣いました。
- TeXとその周辺に関する知見の共有
- 組版・出版とその周辺に関する知見の共有
- ユーザ間交流
もちろん、第一項目にはTeXという語が入りますが、例年のTeXConfと同様、広く「組版・出版とその周辺」をターゲットとし、講演内容が必ずしもTeXそのものに関わる必要はないということにしました。実際、いくつかの講演は組版に関わるTeX以外の話題についての内容を扱うものでした。
開催方法と講演の形式
Online.tex 2020はウェブ会議サービスZoomを利用して開催しました。利用プラットフォームとしてZoomを選んだ理由は主に次の3つです。
- TeXの国際会議TUG 2020がZoomを利用して開催されたこと
- その他(自分が参加したもの複数を含め)多くの学会・研究集会がZoom利用で開催されていること
- 手許にOnline.texの開催に必要な程度の有償機能を利用可能なライセンス付きアカウントがあったこと
特に若い参加者などから、VR技術を利用したより先進的なプラットフォームを推す声が聞かれたのも承知していますが、例年のTeXConfの参加層や雰囲気、そしてZoomのこれまでの運用実績を勘案し、今回のイベントではZoomを利用するのが適当と判断しました。
Online.texの実施にあたっては、事前に下記2種類の講演を各5件ずつ募集し、それぞれの制限時間の中で口頭発表をしてもらう形を取りました。
- 一般講演:30分(質疑応答を含む)
- ショートコミュニケーション:15分(質疑応答を含む)
ただし、例年のTeXConfとは異なり、Online.tex 2020では講演内容の事前審査は行わず、純粋な先着順としました。
講演数と参加者数
一般講演・ショートコミュニケーションそれぞれ募集件数ちょうどの5件ずつ応募をいただきました。講演申込数が足りない場合やどちらかの形式に偏った場合には、一般講演1枠:ショートコミュニケーション2枠の比率でバランス調整を行ったり、単純に枠を削ったりする予定でしたが、結果的にはそうした対処は必要ありませんでした。
また参加者については当初70名分の枠で公開していたのですが、当日までに満員となる勢いであったので90名分に枠を増やし、最終的に78名の方に参加登録いただきました。Zoomのキャパシティ的には、最大300人の同時接続が可能なライセンスであったため、この上限に迫らない限りさらに申込み人数に応じて増枠する予定でした。
結果的に、事前申込の段階では講演者10名+参加者78名の計88名が参加予定という状況でイベント当日を迎えました。これは、企画当初の私の予想を遥かに上回る人数で、正直なところイベント前日は「この参加人数のイベントを卒なく運営できるだろうか」とそれなりに緊張していました。
タイムテーブルと当日の進行
タイムテーブルを事前に以下の通りに定め、当日もほぼこの時間通りに進行しました。10時の開会から17時まで7時間の長丁場であるため、各講演の間には原則10分の間隔を空け、少しずつ休憩を取れるように配慮しました。また各講演者の画面共有テストなどもこの時間を活用して行ったほか、前の講演が少し予定時間よりも伸びた場合の調整もこの小休止を利用して行いました。
| 時間 | 内容 |
|---|---|
| 10:00–10:05 | オープニング |
| 10:10–10:40 | 〈一般〉安田亨、新美大橘(株式会社 ホクソム)『TeXの新スタイル 丸文字スタイル』 |
| 10:50–11:20 | 〈一般〉北川弘典『LuaTeX-jaの近況2020』 |
| 11:30–12:00 | 〈一般〉プライニング ノルベルト(TeX Live Team)『texlive.infoでのサービス』 |
| (昼休憩80分) | |
| 13:20–13:35 | 〈ショート〉鹿野桂一郎(ラムダノート株式会社)『KindleでMathMLの現実』 |
| 13:45–14:15 | 〈一般〉八登崇之『「日本語LaTeX」が多すぎる件について』 |
| 14:25–14:55 | 〈一般〉山下弘展『最近のLaTeXは○○』 |
| 15:05–15:20 | 〈ショート〉朝倉卓人『日本語化プロジェクト 〜TeX Liveとlearnlatex.org〜』 |
| (コーヒー休憩30分) | |
| 15:50–16:05 | 〈ショート〉金子尚樹(開成高校)『SATySFiを使用したMarkdownからLaTeXへのファイル変換について』 |
| 16:15–16:30 | 〈ショート〉小形克宏(一社ビブリオスタイル)『あしたのVivliostyle』 |
| 16:40–16:55 | 〈ショート〉大浦光章(東大TeX愛好会)『東大TeX愛好会のあゆみと最近の話題』 |
オープニングは主催者である私(朝倉)が担当し、イベント進行の大まかな流れやZoom使用上の注意など事務的な連絡を行いました。以降、司会進行役も終日私が担いました。
また当日のモデレータ役は山下さんに依頼し、Zoom会議室の共同ホスト権限を持って不測の事態が発生した場合には対応をお手伝いいただくようお願いしてありました。幸い当日大きなトラブルが発生することはなく、緊急対応を行うことはありませんでした。
当日の参加人数は、時間により出入りがあり、特にモニタリングもしていなかったので厳密な延べ参加者数は不明ですが、Zoom会議室への同時接続数は最大時で60台後半程度だったと思います。午後のセッションの適当なタイミングで、差し支えない方にはビデオをオンにしていただきグループフォト(スクリーンショットですが……)の撮影もしました。

休憩時間中のコミュニケーション促進施策
参加者間交流の促進策として、昼休憩・コーヒー休憩の際にはブレイクアウトルーム(分科会室)を設置し、参加者が各自好みのテーマのブレイクアウトルームに参加して同じルームに在室する参加者とコミュニケーションを取れる状況を用意しました。具体的には、以下のテーマのブレイクアウトルームを設置しました:
- pLaTeX kernel
- LuaTeX-ja
- TeX Live
- Fonts
- LaTeX beginners
- TeX on LaTeX & expl3
- XML & MathML
- Typography
- Pandoc
- SATySFi
- Vivliostyle
- Snowman
結果的には、このブレイクアウトルームを利用したコミュニケーション促進施策は成功したと言えるかどうか微妙なところだったかもしれません。主催した私もすべてのブレイクアウトルームを巡回したわけではないので、各部屋でどのような会話がどの程度なされたのか完全に把握できているわけではありませんが、全体的に実効的に稼働していたブレイクアウトルームは12部屋のうちの数部屋程度だったのではないかと推測しています。もちろん、ブレイクアウトルームすら設置しないよりは多少コミュニケーションが発生したのは確かで、私自身何名かの参加者とコミュニティ運営上の議論ができて有意義な時間を過ごすことができましたが、やはり参加者間交流はどのようなオンライン会議でも大きな課題であるように感じたのは事実です。
とりわけZoomは、メインのプレゼンテーションを行う上では十分な機能と安定性がある一方で、参加者同士が同時多発的にコミュニケーションを取るのにはあまり適したツールではなく、おそらくそうした用途にはGather.townやSpatialChatのようなサービスの方が適しているのではないかと思います。しかし、今回の1日の会議で複数のサービスを使い分けるのは、移動時間や参加者の接続の手間を考えると難しく、今回は別サービスの利用は見送って苦肉の策としてブレイクアウトルームを設置したという経緯がありました。
総評
Online.tex 2020は、総じて私の当初の期待を大きく超える盛り上がりを見せました。講演が募集した10件埋まったことも、合計の参加登録者数がほとんど90名に迫る人数であったことも、私の予想を上回っていました。
応募のあった講演内容も、フォントの話やTeXエコシステム (TeX Live) に関わるような話から、LuaTeX-jaやpLaTeXといった具体的なプロジェクトの近況報告、ユーザ組織の話題、そしてそれらを俯瞰的な見地から語るものまで多岐に渡りました。さらにはKindle, Vivliosytle, SATySFiといったTeXの仲間や「次世代」を目指す組版システムに関わるものについての講演もあり、幅広く多様な話題が登場したことを本当に嬉しく思いました。参加者の興味・関心も様々な中で、それぞれに楽しめる話に触れていただけたのではないでしょうか。
各講演の質疑応答セッションでは、一般に相互コミュニケーションが難しいオンライン会議という場にも関わらず、チャット機能や発言を通して数多くの質問・コメントが飛び交いました。各講演者には、そうした質問へも1つ1つ丁寧なご回答をいただき、とても濃密な時間になりました。
一方で、開催前からわかっていたことではありますが、参加者間交流の点に関しては例年実地で開催されているTeXConfには遠く敵わないものであったと言わざるを得ないと思います。昼休憩や講演間の小休止に発生する多数の自然な会話や懇親会での交流は、なかなかオンラインで再現できるものではありません。来年こそは、例年通りの完全な形でTeXConfが開催されることを心の底から願っています。
講演資料
本イベントでは当日の録音・録画およびそのアーカイブ化は行いませんでした。この点について異論があるのも承知していますが、オンライン開催であることを除き基本的には例年のTeXConfとなるべく条件を揃えたいということで、今回はこのような判断となりました。
そのため、残念ながら一部または全部の講演を聞き逃したという方もいらっしゃるかもしれません。代替の措置というわけでもないのですが、各講演者に任意でイベントページから発表資料へのリンクを提供していただくようお願いしてあり、今日までに多くの発表資料へのリンクが集まりました(ご協力いただいた講演者の皆さんありがとうございます。またリンク未提供の発表資料の登録は、今後も無期限で受け付けています)。
聞き逃した講演のキャッチアップに、あるいは講演内容の復習に、ぜひご活用いただければと思います。
謝辞
Online.tex 2020の開催にあたりお世話になったすべての方々に感謝いたします。特に企画の初期段階から相談に乗ってくださり、当日のモデレータ役を引き受けてくださった山下さんに深く感謝いたします。すべての講演者の皆さま、申込みからイベントでの講演までご協力いただきまして本当にありがとうございました。最後になりましたが、ご参加いただいた皆さまにも厚くお礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。